確定診断まではこちら→確定診断編その1

12歳、ラブラドールレトリバー、去勢オスのアークちゃん。

右前肢の悪性黒色腫のため痛がっている。

 

治療方針は病気の情報を伝えた上で、まず治療のゴールを一緒に検討します。

悪性黒色腫は悪性度がとても強い腫瘍です。

悪性度が強いというのは、再発と転移をしやすいということです。

「再発」とは手術しても同じところにまた腫瘍が出てきてしまうこと、

「転移」とは他の臓器、多いのは肺や肝臓に血管やリンパ管を通して

腫瘍が移ってしまうことです。

悪性の腫瘍、いわゆる「がん」は完全に治すことができません。

 

アークちゃんは幸いなことに病理検査前のレントゲン、エコー検査では

肺や肝臓に明らかな転移像は認められませんでした。

明らかな肺転移がある場合、余命は1-3か月程度と言われています。

そのため転移がある子では基本的には手術はオススメしません。

手術、抗がん剤以外の補完代替医療や

本人が楽に過ごせるように緩和療法を提案していきます。

 

飼い主さんの希望は無理な延命などは考えておらず、

本人が楽に生活できるように、

痛みが楽になるように

とのことでした。

 

骨破壊のある腫瘍では「痛み」が非常に強く出ます。

そしてその痛みを取るのに一番効果的なのは病変を取り除いてあげることです。

アークちゃんの場合では肩甲骨からの前肢断脚手術になります。

最近では義足も出てきているようですが、

基本的に動物の場合、四肢の先の方だけ切除すると

残った部分を地面について歩こうとするため

断端が傷ついてしまい良い結果が得られません。

そのため中途半端に足を残すのではなく、根元から切除するようになります。

 

アークちゃんのお母さんも頭では理解できるのですが、

その場で肢を失うという決断をすることはできませんでした。

そのためまずは痛みを取る治療をしてみることになりました。

ここで以前紹介したウェット包帯を使いました。

こちら→生体治療の考え方と褥瘡治療

 

傷口が乾いてかさぶた(痂疲:「かひ」と言います)ができると、

その下で細菌が繁殖します。

すると強い炎症反応を起こし、痛みが生じます。

アークちゃんも今までのガーゼ包帯をウェット包帯にするだけで

痛みが激減しました。

NSAIDsという痛み止めも併用しました。

 

挙上することが多かった足を着くようになり、

自宅での包帯交換でも噛みつくことはなくなりました。

 

しかし、完全には痛みは取り切れません。

麻薬系の痛み止めを追加しても痛みが目立つようになり、

安楽死という選択肢は絶対にないというお母さんは

前肢断脚手術を決めました。

目的は「痛みを取り除いてあげて、生活を楽にしてあげること」です。

悪性黒色腫という悪性度の強いがんの性質上、

完治あるいは延命効果はあまり期待できません。

 

 

手術は筋肉を切断していって前肢を体幹から切り離します。

筋肉を多く切るため、手術直後はどうしても痛みがでますが、

手術3日後には元気に退院しました。

 

家に帰ると今までよりも元気になっていた、

見た目以上に痛かったんだなぁとわかりました、

とお母さんが言っていました。

 

その後、心配していた肺への転移もなく元気に過ごしていましたが、

半年後にお腹の中に別のがん(リンパ腫疑い)ができてしまい、

そのまま自宅で看取られました。

 

 

当院で治療する場合、

30kg、犬、前肢断脚手術、3日入院(麻薬の鎮痛剤使用)で

約17万円(税別)です。

その後、抗がん剤治療を行う場合、

血液検査、静脈点滴などで

3週間ごとに約2~3万円(税別)抗がん剤の種類で変わります。

6か月を目安に続けます。

 

 

3本足になると見た目はかわいそうかもしれません。

しかし、それは人間がそう感じるだけだと思います。

動物は足がないから自分はかわいそうだとは考えないと思います。

ただ一生懸命に生きているだけです。

人と違い4本足で生活するため、歩行には支障がないことがほとんどです。

費用の問題で手術に踏み切れないこともあるかもしれません。

そうではなく、足がなくなるのが動物にとってかわいそうという人間の思い込みのために

動物が使えない足を持ったまま、激痛に耐えながら生活していくことが

かわいそうだと僕は思います。

 

PS. 大型犬になるほど1本の脚、特に前肢に対する体重の負荷が大きくなります。

この場合も車いすが有用です。

写真はこの記事の子とは違うわんちゃんです。