僕が獣医師を目指したとき、病気の動物を助けてあげたいと思い必死に勉強しました。

獣医師になってからは、病気の動物を助けてあげたいと思うのは変わりません。それだけではなく、悪くなる前に良くしてあげたい、そもそも病気になってしんどい思いをしないようにしてあげたいと思うようになりました。

 

開業して間もなくに診させてもらったわんちゃんのことを書きたいと思います。

症状が出てからでは遅い、どうしようもないということが実際に起こっていることを知っておいてもらえたらと思います。

本人がしんどくならないように、あなたが「この子は健康だ」と思っているうちから健康診断を受けさせてあげて下さい。

 

そのわんちゃんは朝に「往診してもらえませんか?」、という一本の電話から始まりました。1週間前から元気食欲が低下してきたが、今朝からぐったりしていて呼吸が荒い。11歳11か月、26㎏雑種犬とのことでした。

ちなみに呼吸が荒い、というのは重篤なことが多いです。すぐに連れてきてもらって処置が必要だと考え、お伝えしましたが移動手段がなくすぐには連れて来れないそうです。近所だったこともあり病院に連れて帰るつもりで往診に向かいます。

わんちゃんは裏庭につながれており立って移動することはできますが、元気がなくうなだれています。ざっと体をみてみると歯茎が白く、重度の貧血が疑われます。ノミダニ予防はしていないとのことで、マダニが体に付いているのが確認できました。東広島市の特性を考えると、マダニから感染して貧血を起こす「バベシア症」がまず鑑別診断に挙げられます。輸血をすれば何とか持ちこたえられるかなと考えつつ病院に連れて帰りました。。

さっそく血液検査を行うと、血の濃さを表すHt(ヘマトクリット)値が11.9%と重度の貧血(正常は40%くらい)であり、炎症反応を表すCRP(C反応性タンパク)が6.7mg/dlとこちらも中程度~重度の炎症反応が起こっています。赤血球を顕微鏡で見てみてもバベシア原虫は見えませんが、見えないからといってバベシア症の可能性は否定できません。重度の貧血があると、全身に酸素を運ぶ赤血球が不足するため、酸素不足となり呼吸が荒くなります。当然、元気食欲もなくなるため今の症状とは合致します。果たしてそれだけで良いのでしょうか?

検査結果を待つ間に詳しく問診・触診を進めていると、2.3日前から便が真っ黒いタール状の便をしていること、左後肢だけがむくんで浮腫を起こしていることがわかりました。バベシア症の確定がとれていないこと、全身状態があまりにも悪いため追加検査で全身を評価することを提案し、検査を進めていくと・・・予想外の結果でした。

 

なんと胸のレントゲンを見ると肺野が真っ白であり、お腹のレントゲンを見るとスリガラス様といってお腹の中がよく見えません。腹水の貯留が疑われます。エコー検査でお腹の中を見てみると、握りこぶし大の塊、腫瘤が見えます。タール便をするという症状と真っ白な肺野の状態を合わせて考えると、塊は消化管の悪性腫瘍、いわゆる「がん」が強く疑われます。ストーリーをまとめると、消化管のがんがあり、そこからの出血による貧血、肺転移と貧血による呼吸促拍、がんによる中程度~重度の炎症反応、左後肢だけ浮腫をおこしていたのはがんによるリンパ浮腫が考えられます。

 

診断がついた後からはそれぞれの動物の状態、ご家族の想い、経済状況も含めたご家族の状態等により、何を治療目標にするか一緒に考えて検討していきます。が、あまりにも末期の状態でした。病気のことだけ考えると、貧血を改善するために輸血をして、腸の腫瘍を手術で切除するようになります。しかし、肺転移がある場合、手術をしたとしてもその後の余命は数か月持つかどうかであるため、治療目的にもよりますが外科手術は適応外になることが多いです。今回のわんちゃんはあまりにも末期の状態であったため、選べる選択肢がほとんどないのです。

現実的には本人の負担を長引かせないように、このまま見送ってもらった方が良いと提案しました。緩和療法としてステロイド剤の投与を行い、本人の負担を少しでも減らすためにお家の中で見てもらうこと、翌日以降は在宅で往診治療を行っていくことを約束して連れて帰ってもらいました。

いつ急変してもおかしくない旨を伝えていましたが、その1時間後に一度呼吸が止まり大きな息をしていると連絡があり、そのままご家族に見守られながら虹の橋を渡りました。最期を自宅で、ご家族の方に見守られて終えられたことは良かったと思いますが、診察して2時間で亡くなってしまう子に対してはどんな名医でも太刀打ちできません。

 

この子の場合、8か月前に1週間ほど体調を崩したことがあったそうです。1週間ほどで元気になったそうで、このときに何らかの検査をしていれば腸の腫瘍を発見できたかもしれません。すると有効な治療の選択肢もあったことでしょう。しかし、動物がどの程度の状態で病院に連れて行く、検査をしていく、というのは獣医師でも的確な判断が難しいことがあり、飼い主さんにとってはなおさら判断は難しいと思います。そのため、健康だと思っているうちに定期的に健康であることを確認する、健康診断を行うことで万が一病気が見つかった際も心構えをする時間的余裕が生まれ、複数ある治療の選択肢からその子にとって最善のものを熟慮して選択することができます。

 

 

なぜ健康診断で健康であることを確認する必要があるのか。

ポイント① それなりに元気があってご飯も食べて日常生活が送れているから大丈夫、と思っていても本人はしんどい思いをしているかもしれませんし、病気が進行しているかもしれません。人と同様に肝臓だけでなく、膵臓、腎臓などは「沈黙の臓器」と呼ばれ自覚症状がなく病気が進行してしまいます。言葉がしゃべれる人間でさえ症状に気付くことができないのに、しゃべることのできない動物ではもっと事態は深刻です。

ポイント② 急性ではなく、いわゆる慢性のゆっくりとした変化に対しては体は順応してしまい、症状を自覚しにくいです。本人が症状を自覚していないということは、外から見る人が異常を発見するのはさらに困難だと思います。

ポイント③ 繰り返しになりますが、明らかな症状が出てからではいくら高度医療機器を備えた専門病院でも、ゴッドハンドを持つスーパードクターでも手の打ちようがないかもしれません。少しでも治癒する可能性を高めるために、我々動物医療従事者は日々研鑽を重ねていますが、それよりも早く異常を発見して早く治療を開始する方が治療成果は良くなると思います。

 

病気に向き合う時間的な余裕を生み、有効な治療法・その子にとって最善の治療法が選択できるように、何より本人がしんどい思いをしなくて済むように。あなたがこの子は健康だと思っているうちから、定期的に健康診断を受けさせてあげて下さい。

 

 

さくらの花びらのように、人間よりも短い時間で一生を終えてしまう動物。その短い一生を、健康な状態をできるだけ長く維持したまま飼い主さんと過ごしてもらうお手伝いをすることが当院の使命だと考えています。それを実現するために、健康診断を受けることが加入条件である「会員制度」を設けています。会員さんは色んな特典や割引を受けてもらえます。

会員制度とその特典はこちら→会員制度のご案内~予防を徹底してもらうために~

実際、2~7歳までは慢性的な病気になることは少なく健康診断だけを受けるメリットは少ないと思います。しかし、定期的に健康診断を受けてもらう口実にしてもらうために会員制度の特典や割引を活用してもらえたらと考えています。健康診断を受けることは悪いことではないし、会員特典が受けられるから今年も健康診断しておこうって、あなたの家族の一員である大切な動物のために抵抗なく健康診断を受けてもらえるような環境にしていきたいです。

健康診断についてはこちら→犬猫の健康診断セット~血液検査だけで十分だと思っていませんか?~

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。