先日、東京から麻酔専門医を当院にお招きして

実際に麻酔をかけてもらいながら

指導をしていただきました。

これまで大人数向けのセミナーや学会に

県内外さまざまな所へと出向いてきましたが

自院に来てもらえる日が来るなんて・・

当日は専門医の先生、

一緒に参加される獣医の先生方に対して

粗相がないかとドキドキでしたが、

実りある時間を過ごすことができました。

小手先のテクニックではなく、

そもそもの麻酔に対する専門医の考え方も

聞くことができ、理解が深まりました。

たくさん学んだ中から

「麻酔の安全性」について書いていきます。

 

 

麻酔は「生きるか死ぬか」という

最低限の安全性の話ではなく、

「いかに動物の負担を少なくすることができるか」

という高いレベルで

考えられるようになってきました。

麻酔をかけると死んでしまう、と

必要以上に怖がってしまう必要はありません。

怖いからと先延ばしにしてしまい、

より動物の状態を悪くしてしまってから

麻酔をかける方が

何倍もリスクが高くなってしまいます。

 

 

では安全な麻酔とは何でしょうか?

専門医の言葉を借りると、それは

換気・酸素化・循環を制御して

細胞の好気代謝を維持した状態を保つこと

だと言うことができます。

様々な薬剤やテクニックを用いることで

麻酔中に安全な状態を保つようにします。

その中でも特に大事なのが、

鎮痛」をしっかり行うことです。

一般に「全身麻酔薬」の量が増えるほど、

循環を抑制してしまいます。

「鎮痛」をしっかり行うことで

「全身麻酔薬」の量を減らすことができ、

上記の安全な麻酔という目的を

達成しやすくなります。

 

 

動物麻酔の鎮痛に関して、

3つの段階を経て、

より麻酔の安全性が高まってきました。

その流れを紹介します。

 

ステージ1:動物は痛くないよね

ほんの10数年前まで、

動物に鎮痛処置というのは

ほとんど行われていなかったそうです。

今では人と同様に動物も痛みがある、

というのは誰もが知っていることです。

ところが当時は動物の痛みに関心がなく、

また痛みを取るのに有効な薬やテクニックが

一般的ではありませんでした。

 

厳密には「痛み」とは個人個人の感覚なので、

どれだけ痛いかは本人にしかわかりません。

例えると、同じ温度でも

寒く感じる人と暑く感じる人がいるのと同じで、

感じ方はそれぞれです。

動物にも解剖学的に人と同じ痛みの受容体があり、

痛みの伝達経路があり、

脳に痛みを感じる領域がある

ことがわかっているので、

現在では動物も「痛み」を感じる

ということが証明されています。

印象として、動物は人よりも痛みに強いなぁ

とは感じますが、

鎮痛処置は必須です。

当時は鎮痛剤が使われなかったため、

その分全身麻酔薬の量が多くなり、

麻酔事故も多くありました。

麻酔をかける、というのは

イチかバチかの行為でした。

 

ステージ2:動物も痛いみたいだね

痛みの認識がされてきたのと、

良い薬も出てきました。

10年前くらいから

NSAIDsという安全性の高い痛み止めや、

一部の病院ではモルヒネなどの麻薬による鎮痛が

行われるようになりました。

鎮痛剤の使用により全身麻酔薬の量も減り、

麻酔事故も少なくなってきました。

 

ステージ3:より安全で痛みのない麻酔を目指して

専門医も言っていましたが、

最近の獣医麻酔の大きなトレンドとして

局所麻酔の使用」があります。

当院で既に使っている

フェンタニルという全身に投与する麻薬でも

鎮痛作用はとても強いのです。

しかし、局所麻酔はさらに強力で

「ほぼ無痛」を実現することができます。

全身麻酔薬の量もかなり減らすことができ、

安全な状態を保ちやすくなりました。

 

効果的な局所麻酔(神経ブロック、硬膜外麻酔etc)

にはテクニックが必要ですが、

そのノウハウも今回の指導で

教えていただきました。

 

 

その他、より麻酔の安全性を高める方法として

自発呼吸を残したまま麻酔維持をする方法、

麻酔中の血圧低下に対する対処方法

なども教わりました。

麻酔に関する引き出しの数が増えて

様々な状況により的確に

対処できるようになりました。

 

 

安全な麻酔には鎮痛処置が必須です。

その中でテクニックは必要ですが、

局所麻酔がとても有効性が高いです。

 

鎮痛処置をしっかり行うことで、

麻酔の安全性が高まります。

必要以上に麻酔を怖がることなく、

手遅れになる前に動物に麻酔をかけることができ、

快適な生活を長く一緒に送ることができます。

 

麻酔が怖くて検査・治療を躊躇している方は、

お気軽にご相談ください。